山崎亮教授

「かたちのないデザイン」が
地域の未来を変える。

建築学部 建築学科※

山崎 亮 教授

建築設計事務所に勤務していた頃は、公共施設や公園の設計に携わっていました。まずワークショップを開いて地域住民の意見を集め、これをふまえて設計を行う、というのが、そこでの仕事の進め方。時には、建物や公園の設計に至らずとも、ワークショップからまちづくりの活動を起こす、といった案件もありました。そんななか、私は考えたのです。人口減少とともに、公共の建設も減るばかり。このままでは「地域住民の方々と、まちの未来を考え、必要な活動を生み出し、地域を支え合う」という、自分たちがワークショップのなかで培ってきたノウハウや技術を活かせる場所もなくなる。「だったら、ワークショップだけを仕事にすればいい」。私は、そう思い立ちました。

活動風景

コミュニティデザイナーとして、数多くの住民参加型まちづくりプロジェクトを推進。例えば人口減少と高齢化が進む北海道沼田町では、医師や社会福祉法人などの協力も得て、町民が安心して生活できる地域の医療福祉の実現を、地域のつながりづくりを軸に進めています。

医療、福祉、防災、教育。
人のつながりで、解決していく。

私は2005年に独立。以後は、物理的な設計やデザインを伴わなくても、ワークショップを通して地域の課題を住民自身が解決するための道筋を作っていく「コミュニティデザイン」の仕事に携わっています。

今でこそキャリアデザインやファイナンシャルデザインといった「かたちのないデザイン」が一般的になっていますが、当時は「かたちあるものをつくらないなんて、デザインとは言えない」といった批判もありました。でも自分たちの仕事によって人と人とのつながりが生まれ、そのつながりが新しい何かを起こしていくのを、私は何度も目の当たりにしてきたのです。

また、「このコミュニティデザインの手法で地域のさまざまな問題を解決できるのでは?」といった問合せが、医療、福祉、防災、教育、環境など、各分野の専門家から寄せられるようになりました。例えば厚労省が提唱している「地域包括ケア」も、コミュニティデザインの手法で実現可能になる。「かたちのないデザイン」が、地域の未来を変えていくことができるんですよ。

「建築的思考」の価値を、建築の
分野に限定してはいけない。

「デザイン思考」や「アート思考」といった考え方がありますが、私が最も信頼を置いているのが「アーキテクチュアル・ シンキング(建築的思考)」。建築はデザインとアートの両方の要素を備えながら、構造、予算、法律、設備などもセットで考えなければならない。住宅なら、そこに住む家族の何十年先の未来まで見据えて設計する必要がある。つまり建築を学び、建築的思考を身につければ、非常にバランスの良い能力を持った人になれるのです。この能力を「建築物を設計する」ことだけに限定してしまっては、あまりにももったいない。実際に、建築を学んで、建築以外の分野で活躍しているという人は、大勢いるのです。そうした建築的思考の価値を、学生たちに伝えていきたいですね。

PROFILE

山崎亮教授

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建築学部 建築学科※

山崎 亮 教授
(やまざき りょう)

1973年愛知県生まれ。大阪府立大学農学部(緑地計画工学専攻)在学中、阪神淡路大震災の被災地調査に取り組んだ際、公園に集まって励まし合いながら今後について話し合う地域住民たちの強さに感銘を受けつつ、「こうなる前に考えることができなかったのか?」「そのための仕事はないのか?」と考えたことが、後にコミュニティデザインを志す原点に。

1999年に大阪府立大学大学院(地域生態工学専攻)修了後、SEN環境計画室勤務。2005年にstudio-Lを設立。地域の課題を地域に住む人たちが解決するためのコミュニティデザインに携わる。

まちづくりのワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、市民参加型のパークマネジメントなどに関するプロジェクトが多い。博士(工学)。技術士(建設部門)。社会福祉士。

現在は、株式会社studio-L代表取締役、2021年4月より関西学院大学建築学部建築学科教授。

ロイダッツチャリティショップ
ロイダッツチャリティショップ(ソーシャルデザイン)/利益を社会課題の解決に役立てる。
くさねっこ
くさねっこ(パークデザイン)/滋賀県草津市の草津川跡地公園をデザイン。さまざまな人が使いこなす「生きた場」に。

※2021年4月誕生

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