人の感性を科学する。
ものづくりが変わる。
工学部 情報工学課程※
長田 典子 教授
私が取り組んできたのは、人間の感性の研究です。面白いと感じたり、ワクワクしたり、といった気持ちを数値化し、構造を解析してその本質を追求。これを“感性価値”と定義づけて、商品などへの活用を図っています。例えば「耳に心地よいエンジン音とは?」「また飲みたいと感じるドリンクの味や喉ごしとは?」「高級感のある肌触りとは?」「アロマオイルが人のストレスをどう緩和するか?」などを分析し、実際にその結果をより良いものづくりに結びつけてきました。エンターテインメントや音楽も、この「感性価値」を高めることで、より魅力的にできます。感性価値は、SDGsがめざす持続可能な社会に向けた、大量生産・大量消費からの脱却にも貢献しているのです。
学生たちが卒業する時、長田先生は「学び続けることが人生」という言葉を贈るそうです。大学は、知識や技術よりまず、学び方を身につける場所。今日学んだ知識や技術も、数年後には古くなります。変わり続ける世界で、常に新たな価値を見出し、必要な知識や技術をその都度身につけられるよう、学び続けてほしい。それが、先生の想いです。
「欲しい物を必要な分だけ」という
エコな社会へ。
これまでの社会では、大量に作られた物のなかから自分の感性に合った物を選んで買う、というのが当たり前でした。でもこの感性を解析し、数値に落とし込むことができれば、自分が「欲しい」「かわいい」などと感じるアクセサリーや家具などのさまざまな物を、3Dプリンターで誰もがすぐに作り出せるようになります。欲しい物を、欲しい時に、必要な分だけ。SDGsが目指す新しい社会の実現に、この感性の研究が貢献できるのです。実際にこうしたシステムは、スマホケースやネイル、また、ハンディキャップを持つ人にとって使いやすい食器や義手・義足づくりなどの分野において、すでに実用化されています。
エンターテインメントの領域では、TVアニメのピアノ演奏シーンで、より人間らしく感じられる動作を強調したCG制作に協力。プロのラッパーの学生とともに、ラップ音楽が人を元気にする力を持っていることを科学的に証明する、といった取り組みも行いました。
さらに、拭き取り化粧水の開発では、「拭き取れた」という実感や快適感、「明日もまた拭き取りたい」という意欲などの感性価値を解析し、効能とともに感性価値も高める商品づくりに協力するなど、企業との共同研究の事例は数多く、私たちの研究が、ものづくりの未来を変えていくことを実感できています。
分野を越えた専門家たちと
幸せな未来を築いていく。
感性工学は、日本で生まれた比較的新しい学問分野です。企業で検査装置の開発に携わっていた頃、私はこの感性工学に関心を抱きました。関西学院大学に赴任してからは、心理学者、デザイナー、ピアニスト、経済学者、建築やまちづくりの専門家など、分野を越えてさまざまなスペシャリストの方々と協働する機会が増えました。感性の研究には多くの視点や専門知識が必要なので、非常にありがたく思います。
いま急ピッチで進めているのが、感性研究にAIを取り込むこと。例えばクチュールというファッションデザインアプリでは、「古風な柄」「陽気な柄」などの人間の感性をAIに学習させ、膨大な種類の柄のなかから利用者が自分のイメージに合った柄を簡単に抽出できるシステムを作りました。また、物理分析などを手がける企業から打診を受け、私たちの研究成果を「感性評価サービス」という新事業に提供。ここで多くのデータを集めてAIに集約させるなど、さまざまな新しい取り組みが品質向上へとつながっていくと考えています。
「研究は人間の幸せのためにあるべき」というのが、私の考え。いろいろな方々と協力しながら、人々の幸せな未来を築きたい。それができる立場にあることを、うれしく思います。