
世界で初めて
ブラックホールの存在を証明。
理学部 物理・宇宙学科※
中井 直正 教授
私の研究は銀河を電波天文学的に観測し、銀河やその中心にあると云われている巨大ブラックホールの構造や形成・進化の謎を解明することです。銀河は星とガスから形成され、ガスから生命誕生の源である星や惑星が生まれています。したがって、銀河は星・惑星の誕生の母体となっています。しかし、銀河はいつ、どのようにしてできたかは今だによくわかっていません。巨大ブラックホールの形成はさらに謎となっています。このような銀河と巨大ブラックホールは宇宙の初期に誕生したと推定されており、130億年以上をさかのぼった遠い宇宙を観測する必要があります。ただし、そこまで遠いと目で見える光として観測することは容易ではありません。そこで電波天文学という手法を用いています。

南極でのテラヘルツ級電波望遠鏡
建設プロジェクトを推進。
遠方宇宙の銀河を観測するために、テラヘルツという非常に高い周波数の電波を観測します。しかし、そのような高い周波数の電波は地球上の水蒸気に吸収されてしまうため、普通の場所ではよい観測データを得ることはできません。地球上で最適な観測場所として考えられているのが、大気中の水蒸気が最も少ない南極大陸内陸部の高原地帯。私はそこに口径10m級の電波望遠鏡をつくる南極天文コンソーシアムの代表を務めています。これは総額26億円かかる一大プロジェクトです。大学では野辺山の観測所等での観測データの解析を行うとともに、南極に設置する望遠鏡の開発や、雪と氷が堆積した南極大陸で重量がある望遠鏡をいかに設置するかという工法の研究も進めています。
世界初めてブラックホールの存在を
証明。偶然の発見だった。
1990年代前半、私はある銀河の観測をすることになり、国立天文台野辺山宇宙電波観測所で、世界で唯一の8台の電波分光計と45m電波望遠鏡を用いて観測を進め、偶然にも今までの常識ではありえない観測データを得ました。この銀河のデータを検討し、物理学で考え得る可能性をつぶしていった結果、最後に残ったのがブラックホールでした。この研究結果は、従来よりも100万倍も高い精度で、世界で初めてブラックホールの存在を証明した論文としてイギリスの科学誌「ネイチャー」に掲載されました。私の発見から約2年後、ドイツ人研究者らが銀河系で私と同程度の精度で、数年後さらに1000倍の精度の確証でブラックホールを発見。2020年にノーベル物理学賞を受賞しました。ノーベル委員会は精度の高さを評価したのだと思います。