清水 康子 教授

世界で重ねたキャリアを
「未来」へとつなげていく。

総合政策学部 国際政策学科

清水 康子 教授

私は2019年まで難民問題を扱う国際機関であるUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)で働き、イエメン、アフガニスタンやコソボなどの紛争地で難民支援に携わりました。現地では、戦争の悲惨さに何度も直面するなかで、「平和、そして難民を作らない世界」の大切さを実感しました。
UNHCRは、現場と本部、難民の生活/政策のどちらにも接点が持てる、とても働きがいのある職場でした。そこを退職し、2021年4月から大学という新しい現場で、「平和を築く若者を育てる」という取り組みに挑戦することになりました。

1997年3月、UNHCRの職員として勤務していた頃の清水先生。場所はウガンダで、ルワンダの難民が帰還するためにトラックに乗り組むところを名簿で確認している様子を撮影した写真です。清水先生の右隣の人物は、ウガンダの職員の方。ルワンダの難民の子どもたちに笑顔が見られるのが、とても印象的です。

自分と考えの違う相手に興味を持つことが
世界の問題と向き合ううえでの第一歩に。

UNHCRは、難民、政府、職員、NGOなど、立場や利害関係が異なるさまざまな人々・団体とともに働く環境にあります。20年以上、私はただ一生懸命に働いていたのですが、最後の数年に、それでは足りないと感じました。関係者の意見にあまりにも隔たりがあって、合意への道筋が見えないときに必要なもの、それは説得や、ましてや議論ではなく、誠実さではないかと。難民保護のためには、絶対に譲歩してはいけないと思うような意見を言う相手であっても、まず、聞いてみる。相手の言い分にもっともだと思えることがあるのかを考えてみる、あればそれを伝える、その上で、自分が代表している団体や人々(難民)の立場も述べる。膠着する状況に変化を望むなら、そのような誠実な対話から始めることが必要でした。
学生のみなさんは、将来、家庭人として、社会人として、国際問題について再び考える時が来るでしょう。自分の国と別の国の問題、自分の国の中での対立に直面することもあるでしょう。その時に軍事行動や力による鎮圧こそが解決への道と考えるのか、平和的な解決方法を模索するのか。ぜひ、平和を選択する人になってもらいたい。そのために、今、自分と考えの違う人と向き合い、相手の話をしっかりと聞くことがスタート。「自分と違う」ということに驚いてシャットアウトしてしまうのでなく、「なぜ違うのか?」「どんな視点を持っているのか?」「妥当な言い分はあるか?」などと考えれば、相手との違いを超えて新しい共通の目的を持つための端緒が見つかるかもしれません。

幅広い知識を養う国際政策の学びから
「自分がやりたいこと」も見えてくる。

そのような「理解しよう」「平和をつくろう」という『気持ち』を支えるには『知識』が重要です。国際政策という分野には、あらゆる学問が関わります。難民の問題を生み出した背景を考えても、戦争などの歴史的事象や経済事情、宗教など、さまざまな要因が絡み合っています。また、SDGsの17のゴールを見ても、一つのゴール(分野)が他のゴールと関係しあっていることが見てとれます。それだけにさまざまな領域についての知識を動員しながら問題に取り組んで、ゴールに向かうための戦略を作るキャパシティが求められている時代です。学生時代に学んだ言葉に「Cool Head and Warm Heart」(冷静な頭脳と温かい心)というものがありました。これは経済学者の言葉ですが、人道支援の現場でも、この言葉を聞くことがしばしばありました。例えば、紛争から逃れている人々に援助を届けようとする援助者も、また、同じ紛争の中にいます。それでも人々の生命を助ける支援をなんとかして届けたいという熱い心と、状況を冷静に分析し判断できる能力は、両輪として必要だということを、国連で働くことを想像していなかった学生時代に教えてもらったのです。総合政策学部で学ぶ学生のみなさんにも、その両輪の基礎を築いてもらえるように、一緒にやっていきましょう。

PROFILE

清水 康子

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総合政策学部 国際政策学科

清水 康子
(しみず やすこ)

博士(総合政策)。兵庫県生まれ。関西学院大学経済学部卒業後、青年海外協力隊員としてガーナに2年間赴任。ハワイ大学で修士を取得し、外務省のジュニア・プロフェッショナル・オフィサー派遣制度を通じて1994年にUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)に入所。ウガンダ、コソボ、アフガニスタンなどで難民支援に従事。2005年からはJICAに出向し、日本へ。この日本滞在期間に博士課程の研究を進め、2006年に関西学院大学総合政策研究科修了。博士(総合政策)。2007年よりUNHCRジュネーブ本部に所属。ミャンマー勤務の後、2013年よりUNHCRイエメン事務所副代表、2015年からインド勤務。2016年から2019年までUNHCRインド・モルディブ事務所代表を務める。2019年10月より関西学院大学総合政策学部特別客員教授。2021年4月より現職。

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