井村 誠孝教授

VR技術で、人と人とが
理解しあえる社会へ。

工学部 知能・機械工学課程

井村 誠孝 教授

私が専門とする研究分野は「バーチャルリアリティ(VR)」。「Virtual」という言葉はよく「仮想」と訳されますが、辞書には「本質的な」「実質の」という意味が記されています。つまり「Virtual Reality」とは、リアル(現実)の「本質」の部分を再現する技術であり、例えば、目の前にないものをあたかもそこにあるように感じさせることができます。私はこのVR技術について、特に「他者を理解するためのツール」として使える点に着目し、研究を進めています。例えば、VR空間で認知症患者の日常生活を体験できるシステムを構築。認知症に苦しむ人の気持ちも「本質的に」理解できる、このような研究成果を通して、人と人とが相互に理解しあえる、やさしい社会づくりに役立てればと考えています。

医療分野だけでなく、例えばリアルで失敗すれば大事故にもなりかねない作業の訓練をVR空間で行うトレーニングシステムや、目の前に現れたモンスターと戦う感覚が味わえるゲームなど、VR技術は多彩に活用されています。井村研究室でも、VR空間の臨場感を向上させるための基礎研究から社会での実用に向けた応用研究まで、幅広い研究が進行中です。

他者の病状なども体感として
理解できるVR技術。
人と人とが本当の意味で
わかりあえる社会をめざして。

認知症体験のシステムは、三田市の社会福祉協議会との連携プロジェクトから生まれました。ヘッドマウントディスプレイとコントローラーを使って、認知症患者が普段の生活のなかで記憶が抜け落ちてしまう状況を体験できるといったものです。記憶を失わせることはできないので、代わりにVR空間の方を操作することで、記憶と環境の不一致を作り出します。他にも医療の分野では、網膜の異常などによる視覚の不調をVR技術で再現する仕組みを、兵庫医科大学との共同で開発。これまで問診などから推測するほかなかった患者さんの「見え方」を、眼科医がVRで体験し、客観的に把握できるシステムの構築を進めています。
自分以外の人の感じ方や気持ちを、理解するのは簡単ではありません。でもVR技術を使えば、他者がどのように感じているかを体験でき、それが他者を理解するための大きな手助けとなります。「百聞は一“験”に如かず」というのが私の考えです。体験を通して一人ひとりが他者への理解を深めることができれば、社会のあり方ももっともっとより良いものへと変わっていくはず。そこにつながるVR技術を、これからも追究していきたいですね。

リアルとVRとの垣根を取り払う
技術を追求し、
社会に新たな価値を
もたらすことに挑戦していく。

VR技術の究極としては、例えばヘッドマウントディスプレイなどを用いずに、目の前に立体的な映像を投影するといったことを実現したいのですが、そこまではまだ難しいというのが現状です。でも視覚だけでなく、聴覚や触覚、嗅覚、味覚も含め、五感の刺激を通してリアルとVRとの垣根を取り払うことに挑戦していきたい。研究活動は、社会に新しい価値を付け加えてこそ意義がある。自分の作ったものは誰にとって価値があるのか、その価値は誇れるものなのかといったことを大事にしながら、VR技術を突き詰めていこうと思います。
学生たちには、自分がやりたいと思い立ったなら、まず手を動かしてもらいたいですね。それが研究として成り立つかどうか考えるのは、後回しにしてもよい。一つのアイデアを思いついたとしても、同じことを1万人が考えているかもしれません。でも実際に手を動かすのはそのうちの100人ほどで、成功するのは1人くらいだと思うんです。その1人になろうとするなら、少なくとも手を動かさないと始まらない。経験をしなければ、新しい発想も出ませんからね。やはり「百聞は一“験”に如かず」なんですよ。

PROFILE

井村 誠孝教授

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工学部 知能・機械工学課程

井村 誠孝
(いむら まさたか)

博士(工学)。研究分野はバーチャルリアリティ、ヒューマンコンピュータインタラクション、生体医工学。1996年3月 京都大学理学部卒業。2001年9月奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科博士後期課程修了。奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科にて2001年度より助手、2007年度より助教を務め、2009年度より大阪大学大学院基礎工学研究科准教授に。2015年度より関西学院大学理工学部教授。2021年4月、理工学部の再編によって、工学部知能・機械工学課程の所属に。研究室では「バーチャルリアリティ技術に基づく知的活動の活性化と支援」をテーマに、医療・産業・教育・エンタテインメントなど幅広い分野に貢献している。趣味は写真撮影で、コロナ禍以前は学会発表などで海外に出向いた際、有名な観光地ではなく、何気なく訪れた路地や市場などの風景写真を撮ることを楽しんでいた。

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