
安全・安心なエネルギーを
世界の人々の幸せのために。
大学院 理工学研究科 先進エネルギーナノ工学専攻 修士課程1年生
※取材当時
青谷 拓朗 さん
東日本大震災からの復興事業として福島第一原子力発電所の廃炉計画が進められています。僕が大学院で取り組んでいるのは、この計画を安全に実現するための「水素-酸素再結合触媒の研究」。この触媒技術は福島の復興だけでなく、来るべき水素社会における安全なインフラ構築にも貢献できるものです。世界のエネルギー問題と向き合えるこの研究活動を通して僕は、大型放射光施設SPring-8での実験や国際シンポジウムでの組織委員長(シンポジウムチェア)など、数多くのかけがえのない経験をさせてもらい、成長を重ねています。世界の研究者とも協働しながら養った幅広い視点を生かし、未来を生きる人たちが多様性を持って幸せに暮らせる世の中を築きたい。それが、僕の願いです。

青谷さんの当面の目標は、「より低温で反応する触媒を設計し、その反応プロセスを明らかにすることで、水素の安全やそこに向けた触媒に対する知見を得る」こと。アイソトープガスなど新たな設備も導入し、新年度からこの研究を本格化させていく計画です。そしてその成果を卒業までに論文にまとめ、学会で発表したいと考えています。
教授や先輩たちに背中を押してもらって
進学した大学院で
今しかできない貴重な経験や
挑戦をたくさん重ねている。
現在の研究室には大学4年生の時から所属していますが、実はそれ以前は「大学卒業後はすぐに就職」と考えていました。当時の僕には、大学院に進学する意味があまり見出せなかったのです。しかし、研究室で先輩たちが実際に研究に取り組んでいる姿を間近で見て憧れを抱き自分もそうなりたいと感じました。そして田中教授が何度も面談をしてくださり、そのなかで「院に進学したら、そのことを絶対に後悔させないような経験はさせるよ」と約束してくれたんです。
実際、田中教授の研究室に入ってから現在まで、本当にいろいろな経験をさせてもらえました。国際プロジェクトに参加して、世界最高クラスの放射光実験施設であるSPring-8での実験は合計でもう50日を超えるほどです。また国際学会での発表や、ドイツでの一週間の実験、フランスの研究所訪問など、国際的な経験も。教授や先輩たちに背中を押してもらって「一度きりの人生のなかで、今しかできない自分のやりたいことに挑戦しよう」と大学院に進学したことを、改めて良かったと実感しています。卒業までに、まだまだもっといろんな挑戦がしたい。そのための環境が、ここには整っています。
国際シンポジウムをはじめ、
国内外のさまざまな
人々との出会いが、
視野を大きく広げてくれる。
田中研究室では、2022年度より液化水素の安全な貯蔵と輸送に関するドイツ・フランス・日本の国際共同研究プロジェクトに取り組んでいます。12月にその国際シンポジウムが神戸で開催され、僕はそこでシンポジウムチェアを務めました。これまでリーダー的役割を担った経験がなかったので最初は戸惑いましたが、「何もしなかったら何もしないまま終わる、とにかく行動しよう!」と奮起し、一生懸命に準備を進め始めると、友達や先輩・後輩が自然と手伝ってくれるようになり、気がつくとみんなが一丸となって、それがシンポジウムの成功に繋がったのです。
シンポジウムでは、世界の研究者たちの発表を聞くなかで「発信すること」の大切さも肌で感じました。「自分たちはこんな考えで、こんな研究を進めている」と社会に発信すれば、賛同者や協力者を募ることも、批判を受けて自分たちの取り組みを見直すこともできる。それは、シンポジウムチェアとしてみんなを巻き込みながら成功を収めた体験とも重なります。社会を変えるようなイノベーションも、まずは行動し、発信して、周囲を巻き込むことで、実現へと近づく。さまざまな経験を通して、そうした気づきや視野の広がりを得られるのが、うれしいですね。